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ファイヤードブログ

ディジタル・パブリッシングという観点から、Webサイト制作、電子書籍制作などを。※ブログリニューアル中

もうウェブサイトを作る必要はない。あるいは、ウェブデザインにおけるデザイナーとデザイン思考家の違いについて

はじめに

 仕事が全然取れないので、次のTOEICで950点くらいとって英語講師に転身しようかな、と考えているファイヤードです。

 さて、デザインから実装までを行うウェブサイト制作を売りにして、私は活動し始めたのですが、ウェブサイトは私が作らなくてもいいのでは、と考えるようになりました。前提として、私は今のところ、小中規模の店舗や企業を中心にアプローチしています。

50ドルで買える高品質テーマの衝撃

 ThemeForestに並んでいる50ドル前後のテーマやテンプレートを見て、それらよりも良い(同じくらい、じゃダメですよ)デザインのサイトを実装を含めて自信を持って作れるという制作者の人がいたら、手を挙げてくれませんか。もちろんいることでしょう。でも、たとえ作れるという人でも、50ドルというテンプレートのコストに時間対効果で敵うでしょうか。

 今、私の手元には『デザイナーのためのプロの制作術が身につくWebディレクションの教科書』という本があるのですが、見積もりの例として、合計1,312,500円のプロジェクトが紹介されています(65ページ。とある株式会社のサイトのリニューアルという例)。内訳をみると、コーディング、デザインで812,500円とおよそ62%を占めてします。ここからカスタマイズ関連、およびコーディングに含まれているデバッグ料金を引いたとしても、合計金額は462,500円になります*1。これは、果たして適性な価格なのでしょうか。これが的確であったとしても、これほどの費用をウェブサイトに払えるクライアントはかなり限られたものになるのが実情ではないでしょうか。

 もちろん、お金を買えば誰もが買えるテンプレートやテーマをそのまま使っては、ブランディング(=差異化)において不十分ですから、デザインのカスタマイズは必要でしょう。タイポグラフィが日本語サイトにはマッチしていないケースも往々にしてあります。また、WordPressならば、カスタム投稿で独自の機能をつけることもあるでしょう。ただ、これも、50ドルの高品質テーマをベースにすれば割と簡単にできてしまうものです。

作ってからが問題だ

 この間、WordPressでサイトをひとつ作り終えました。複数のプロジェクトをひとりで並行して行っていたので、数ヶ月を要しました。長い制作期間を経て公開して思ったのは、「これで何の意味があるんだ?」ということでした。ECショップなら直接的なメリットが実感しやすいかもしれませんが、ただの店舗サイトを作っても、手応えとして何も感じられなかったのです。せっかく作ったのに。

 クライアントが小中規模である場合、Web担当者がいるということは稀です。こちらが作って、お金をもらってクライアントに別れを告げることもできるでしょう。けれども、それで価値を提供できたことになるのでしょうか。

 ここの所、「デザイン」という言葉がビジネス方面でバズワードとして扱われています。最近出版された日本版Forbes6月号の表紙がIDEO*2というのもそれを象徴していて興味深いです。このトレンドを個人的に、「なんか、うざいな」と思って見ていたのですが、食わず嫌いもいかんだろうということで、IDEOの人が書いた本を紐解いてみました。

 で、トレンドとしてはうざくても、それ自体はうざくないということは往々にしてあって、今回もそのケースでした(実際に原著が出たのはバズワードになる前でした)。その中に、ちょうど今まで考えてきたことのヒントになることが書いてありました(『デザイン思考が世界を変える』、ティム・ブラウン著 千葉敏生訳、pp.58-59より引用)。

「デザイン」が「デザイン思考」へと進化するにつれて、デザイナーの活動は「製品の創造」から、「人と製品との関係の分析」、さらには「人と人との関係の分析」へと進化を遂げてきた。実際、近年のデザイナーたちは、投薬計画の順守や、ジャンク・フードから健康的な間食への転換など、社会的・行動的な問題へと活動の幅を広げている。これは驚くべき進展だ。

 本書では、「デザイナー」と「デザイン思考家」がしばしば対置されるのですが、いわば、「サイトを作って納品」というのは単なる「デザイナー」(旧来型価値)でしかないわけです。いわゆる「サイト制作」という時も、だいたいは納品までしか想定されていません*3。なるほど、サイトを作ってクライアントに納めることもひとつの価値ではあります。しかし、当たり前ですが、クライアントが望むのは「ウェブサイトを持つこと」ではあり得ないわけで、切実に求めるのはそれによってもたらされる具体的なメリットなわけです。これに加えて、「サイトを作って納品」の「サイトを作」るという価値自体が、50ドルの高品質テーマによって、脅かされているわけです*4

 したがってこれまでのように、「WordPressで、企業(ないし店舗、病院などの)サイトを、10万台から20万台、あるいは30万台から40万台。もしくは50万台以上」というのは、成り立たない。すでに軌道に乗っていて卓抜な営業力があるようなところであれば、これまで通りでもいいのかもしれませんが、それでも多かれ少なかれクライアントに対する搾取がそこには存在することになるでしょう。

展望

 ウェブデザイナー、ホームページ制作寄りのウェブ制作者がこの先どう生き残っていくべきかの展望を述べて終わりにしたいと思います。これまでの前提として、小中規模相手のクライアントという前提でこれまで主に語ってきましたが、ここからは展望ですので、それにとらわれずに述べてゆきます。

  1. AWWWARDSに掲載されているような、最先端のウェブデザイン
  2. 既存のテンプレートやテーマをベースにして、そのカスタマイズやSEO強化、サイト改善を含む総合的なデザイン
  3. 自社サービスを抱える会社のフロントエンドにおけるデザイン

 1の場合、理想的な形ではありますが、いくつかの困難があります。まず、スキル要件が非常に高いです。例えば、CSS3のAnimationでkeyframesを自在に操り、jQueryでは必要であれば自分でプラグインを書けるくらいのレベルじゃないといけないでしょう。最先端のデザインを発想する力も必要になります。同時に、必然的にこれらの案件では依頼を受ける際の料金が高額にならざるを得ないでしょう。そうした依頼してくれるクライアントを見つける(あるいは、そうしたクライアントに見つけてもらう)困難が生じます。

 2は上でも触れてきた事柄です。1は難しいですから、2の方へ舵をとるのが無難であると言えます。問題としては、職人的な気質を持ったデザイナーが、果たしてコミュニケーション能力が多く要請されるデザイン思考家へと切り替えられるのかという点です。

 3は海外では比較的メジャーなデザイナーの生存形態です(cf.フリーランスWebデザイナーという職業も無くなる4つの理由 | freshtrax | btrax スタッフブログ)。ただ、フリーランス気質の人は、インハウスで雇われることに抵抗があるかもしれません。

個人的な展望

 とりあえずTOEIC950点前後:P

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

*1:8/13 訂正 直す前の文章は「占めています。」の後に、 「後で少し触れるカスタマイズ関連、およびコーディングに含まれているデバッグ料金を除いたとしても462,500円になります。」という文章が続いたが、文意が不明瞭なため日本語を改めた

*2:Forbes JAPAN(フォーブスジャパン) 2015年 06 月号

*3:[要出典]

*4:ここにはもう一つの脅威があって、それは無料HP制作サービスの進化というもの。これについては、Webサイト(ホームページ)を持ちたい方へ。しかも無料で - Phiyard Blog参照。