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ファイヤードブログ

ディジタル・パブリッシングという観点から、Webサイト制作、電子書籍制作などを。※ブログリニューアル中

あらゆる棚に佐藤優が……

新宿のとある書店で平積みにされていたデリダの新刊をパラパラとめくっていたところ、「えっ、またこいつ……!」と、すぐそばの新書コーナーの方から悲鳴にも似た女性の声が聞こえた。視線を声がした方へ向けると、そこには大学生だろうがおそらくまだ十代と思しき、ぎりぎり美男美女といえる感じの男女のカップルが。

「え、ちょ……、またこいつじゃん!」と今度は男の方が驚嘆の声を上げる。私は彼らを困惑させながらも興味津々にさせているものが何なのかを知りたくて、彼らのいる新書コーナーへと行き、彼らと背中合わせになって新書を立ち読みするふりをした。

「えっ!ここにも!もう、な〜に〜も〜の〜?」とふたたび女。そっと振り返ってその女の指差さしていた方を見やると、何でもない。本の帯に写ったただの佐藤優だった。

使える地政学 日本の大問題を読み解く (朝日新書)

服についたシミをひとつでも見つけてしまうと、他にもまだあるんじゃないかとくまなく探してしまうように、カップルは棚のあちこちを右往左往して、その「なにもの」かわからない著者による書籍を特定しては、「もう、本当になんなのコイツ!」「調子乗ってんじゃね?」「勘違いしてるよね!」「あ、ほら、またここにも……もぅ怖いょ」「大丈夫、俺が守るから」と閉店間近の静かな書店でほざきまくっていた。

「なにもの」を連呼しつつもいっこうに著者名を確認しようとしない彼らの振る舞いを咎めることはここでは避けよう。いま書店に行けば、たしかに、あらゆる棚に佐藤優がいるのである。帯の上の優、POPの上のイラストで描かれた優、論壇誌の表紙の上の優、平積みにされまくって苦しそうな下の方の優、橋本マナミの横の優、連載の中の優、風の谷の優……。

不況にあえぐ出版社、部数の減少に悩む雑誌、閉店を恐れる書店は、優を頼り過ぎている。優の気持ちも考えずに編集者や書店員は優優優優優優優彰優優優彰優と口にしているのだろう。それが、優も言っている反知性主義でなくて何なのだろうか。そして何よりも、そうした優依存が青少年を怯えさせてしまっている。売る側はこの事実にも目を向けるべきである。もっと、優しくなろうではないか。